電車で見た小さな親切

大学の入学式の帰りのことだった。
行列を避けて別の駅までバスに乗っていた時だ。
特にすることもなかったので、前の席に座っていた白髪の女性が交わしている会話に耳をそばだてていた。
その女性は最近の若者は怖いと話す。命を大切にしない、虫でも人でもすぐに殺す、と現状を憂いていた。
確かにそうだ。今は小学生でも殺人を犯す時代なのだ。

それも同じ日のことだった。
時間は少し遡る。入学式へ向かうために乗った電車の中でのことだ。
その電車は混雑していた。中には同じ入学式へ向かうと思われる人も見受けられた。
発車を待ってつり革を握った。ちょうどその時だった。

「ちょっと、どいたって!」

という声が電車内に轟いた。
何事かと思って声のする方向を見た。頭は金髪、片手には携帯電話――そこにいたのは、典型的な今風の若者だった。彼は口調を強めてもう一度同じ言葉を繰り返した。その言葉に従うように、数人が場所を移動する。しばらくすると、中年男性が申し訳なさそう電車を出て行った。

どうやら中年男性は電車を出られずにいたらしい。そこに彼が助け舟を出したというわけだ。

心温まる瞬間だった。

一見すれば些細なことだ。しかし、もし彼がそうしていなければ、この男性は次の駅まで降りられなかったかもしれない。その電車は新快速、止まる駅はかなり先だ。

困っている人の存在に気付ける、そしてそれに対して行動が出来る。
こうした勇気や行動力を持っているかどうかは、年齢や見た目には関係がない。
それは、それぞれ各人の問題なのだと痛感させられた瞬間でもあった。

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